光学コーティング

スマートフォン用カメラレンズコーティング

昨今、携帯電話のカメラ性能の向上によってスマートフォンで写真撮影をすることが一般的になりました。スマートフォンのカメラの画質はモバイル機器を販売する際の重要なセールスポイントの一つになっていますが、カメラの小型化と改良が進むにつれて、レンズ設計と素子構造は必然的に複雑になっていくこともまた事実です。ALDは、次世代モバイルカメラ用レンズに反射防止膜を施す強固な製造ソリューションを提供します。

スマートフォン端末の相手先商標製品製造業者(OEM = Original Equipment Manufacturers)は、技術向上のために常により小型でかつ軽量な、性能の良いカメラモジュールを探し求めています。光学エンジニアがこの需要に応えようと、次世代スマートフォンカメラ用のレンズ部品を設計する際には、多くの課題に直面します。

こういった需要に耐えず応えるため、スマートフォンのカメラレンズ設計では、プラスチック製の非球面レンズへの移行とレンズ数の増加という2つの変化が相乗効果的に起きています。

本記事では、上記のような変化と、ALDがどのようにしてカメラレンズ用コーティング技術を提供するための技術として注目を浴びるようになったのか、ご紹介します。

 

ポリマーの流行

まず、比較的最近台頭してきたレンズであるプラスチック製の非球面レンズについて説明します。従来のレンズ設計では、大きめの球面ガラスレンズが使用されることが多く、光検出器に光を導くために単純な設計がなされていました。しかしながら、レンズの小型化と軽量化に重きが置かれるようになってきてからは、この種の従来のガラスレンズはほとんど使われなくなってきています。

プラスチック製のレンズはガラスレンズに比べてはるかに軽量であるため、毎日持ち歩くスマートフォンのような機器に使われるのがごく当たり前になりました。

ポリマーレンズは製造も容易です。年間15億台以上のスマートフォンが販売されていますが、一台のスマートフォンに複数のレンズを持つものも開発されるようになってきています(このレンズの数は年々増加傾向にあります)。射出成形のような方法を利用すれば、毎年何十億枚も必要とされるポリマーレンズを、ガラスよりも簡単でかつ手頃な価格で製造することが可能です。

しかしながら、レンズモジュールの小型化は、単にレンズを小さくすればいいという程単純なものではありません。レンズの厚みや形状をわずかでも変えることによって、入射する光の方向などに何らかの影響を及ぼすからです。これは、レンズの屈折率を変えることで解決できることが多いですが、プラスチックレンズの屈折率の範囲には限りがあります。よって、光の収差を補正するには、より自由形の非球面レンズを使用する必要があります。幸い、プラスチックレンズはこのような複雑な形状に簡単に成形することができます。

従来のレンズ設計ではシンプルな球面レンズが使用されていましたが、ポリマーレンズへの移行によって、非球面レンズ形状が採用されるようになっています。
スマートフォンのカメラレンズのモジュール回路図例。各モジュールは複数の非球面レンズと自由曲面レンズで構成されています。

 

レンズ数は多いのと少ないのと、どっちが良いのでしょうか?

ポリマーレンズがうまく機能するのなら、なぜスマートフォンのカメラレンズ数は年々増加傾向にあるのでしょうか?焦点距離の違うレンズを搭載することで、異なる波長の光がレンズ素子と相互に作用して屈折し、異なる方向に向けられることから、一般的にレンズの数は多ければ多いほど良いと言われています。

言い換えれば、検出器までの光の経路を補正するレンズの数が多ければ多いほど取り込める情報量が増えるため、得られる画質は良くなるということです。これはスマートフォンのカメラにおいては特に重要です。

例えば、典型的なデジタル一眼レフカメラを例に挙げると、一眼レフの場合はレンズと撮像素子の焦点距離を調整することができます。しかしながらスマートフォンで同じことをしようとすると、裏面の小さなスペースでレンズの部分を動作させなければならないため、薄くおさえることができず、携帯用に持ち運ぶスマートフォンでそれを実装するのは現実的ではありません。

プラスチックレンズの屈折率に限界があることが分かれば、スマートフォンのカメラモジュールに複数のレンズが必要な理由が理解できるのではないでしょうか。

限られたスペースで最高の画質を実現するため、スマートフォンのカメラには最大8枚の非球面レンズが積層されており、未来の新商品においては最大10枚になると主張する企業もある程です。ざっと見積もると、次世代のスマートフォンには平均3つのカメラが搭載され、それぞれに10枚のレンズが搭載されることになります。一台において計30枚のレンズを毎年販売される15億台のスマートフォンと掛け合わせると、年間2兆枚の写真が450億個のレンズで撮影される可能性があると推定できます。

ALDによるカメラレンズのコーティング

では、前述のカメラレンズとALD(原子層堆積法)にはどのような関係があるのでしょうか?カメラレンズは一見素材そのままに見えるかもしれませんが、多くの場合、反射防止コーティングや防眩コーティングが施されています。コーティングの目的は主にアーチファクト(画像内に映し出される散乱線やノイズ)の原因となる物質界面での反射を抑えることですが、これはフレアやゴースト画像ではない高品質な画像を撮る上で非常に大事な工程です。

反射防止(AR)コーティングは、反射光が破壊的に干渉するように設計されており、不要な反射光が光検出器に到達するのを防ぎます。光はあらゆる界面で反射されるため、レンズが増えるごとに高性能な反射防止膜が必要となります。

Cーティングのされていないガラス(左)とALDで反射防止膜を形成したガラス(右)の比較。

ALDを利用すれば、複雑な形状に対しても高い適合性を持つ反射防止膜を簡単に成膜できます。このプロセスでは、すべての表面に同量の材料を100%カバーしながら成膜するため、非球面形状であるスマートフォンレンズ用途のARコーティング製造などに最適です。

ALDは、複雑な形状のレンズにほぼ完全に均一な膜を形成できるだけでなく、1回のバッチで数百から数千規模のレンズをコーティングすることができます。実際、サーマルALDおよびプラズマALDプロセスは、軟質ポリマー材料へのダメージを防ぐために一般的に使用されています。

薄膜蒸着法のステップカバレッジ(段差被覆性)における比較。パルスレーザー堆積法(PLD)、化学的気相成長法(CVD)、物理的気相成長法(PVD)などの従来の光学コーティング法とは対照的に、ALDは次世代光学にとって重要な要素である等角性を提供します。
複雑な光学部品形状などのコーティング設計を実施する場合、ALDはイオンビームスパッタリング(IBS)や電子ビーム蒸着(EBE)のような物理的気相成長法(PVD)よりも優れています。ALDの等角性、精度、調整可能性は、高度な光学設計に最適です。(Weiss and Ebert, 20より引用)

革新的なBeneq AtomGrass™の広帯域反射防止膜は、380~1000 nmの範囲において平均反射率が0.07%未満で、入射角50度まで安定した性能を発揮します。

卓越したAR性能に加えて、コーティングの厚さはわずか150nmと、従来のARコーティングの数分の一に過ぎません。また、組成を変えることで、異なる帯域や反射極小値に調整することもできます。このアプリケーションの詳細については、Beneqのブログをご覧ください。

Beneq AtomGrass™の広帯域反射防止コーティングと従来の反射防止膜との比較図。Beneqのソリューションは、平均反射の極小値と帯域幅で従来のコーティングに勝るだけでなく、入射角の大きさでもはるかに優れた性能を発揮します。

昨今のスマートフォン用カメラにおけるALD

ALDは実際、スマートフォンのカメラを製造するのに導入されています。2022年、Xiaomiは新型スマートフォン「Redmi 12S」のカメラのレンズにALD反射防止膜を導入しました。今後、より多くのOEMが携帯カメラレンズのコーティング技術としてALDを採用し始めると予想されます。

Android Authorityの調査によると、消費者の半数がスマートフォンのカメラの品質を購入の際の重要な検討要素として考えています。回答者の実に4分の1(25%)が、スマートフォンのカメラを他の機能よりも重視すると答えています。

消費者の4人に3人がカメラの画質を決め手としていることを考慮すれば、OEMメーカーが最先端の技術に投資し続けるのは当然のことと考えられます。ALDが次世代のスマートフォンカメラ製造に使用されることで、写真の画質は今後、確実に向上していくことでしょう。

¨https://www.androidauthority.com/smartphone-camera-poll-results-1204074/


 

BeneqのALDソリューションとプロダクトに関しては、光学コーティングのページをご覧ください。

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